知人の上場会社の経理担当者の方と定期的に会食(=飲み)をしておりますが、
偶然、複数の方から質問されるのに、
「いわゆる遡及修正(つまり、訂正報告書)の実施と監査人交代とを、
同じ期で実施するのは、どうでしょうか?」
というのがあります。
過去に、多額の会計処理の適用誤りがあり、
今回、それをキチンと修正しないといけない事情がある場合に、
ある意味、それを指摘できなかった(=発見できなかった)従来の監査法人にも、
責任を被ってもらうことを企図されるものです。
そのような経理担当者に共通な点としては、「企業再編が予定されるか企業再編の結果、主要株主(親会社)が変わる予定や変わった会社」であることです。
ルールを確認しますと、、、
会社が過去の会計処理の誤りに気付いた場合、
その金額に、重要性が無い場合には、実務的には、監査法人と協議の上、合意のうえ、
「’しれっと’(=注記なしに)修正し、訂正報告書も発行しない」
ことは、通常、違反ではありません。
しかし、過去の会計処理の手適用誤りの金額に、重要性がある場合には、
’しれっと’(=注記なしに)とはいきません。
重要性がある場合には、遡及修正した旨の注記と、該当する年度以降の監査報告書について訂正報告書を発行するのが原則になります。
それでは、訂正報告書が発行されると、どんな影響が、どの程度、どの方面に及ぶのか?
それは事前にはなかなか分かりません。
担当者として、一番管理不能なものは、株価への影響でしょう。
訂正報告書が発行される際の原因としては、
従業員不正、経営者不正、粉飾、単純な会計処理誤り等が考えられます。
このうち、最後の「単純な会計処理誤り」以外は、いずれも株価への影響は限定的でしょう。
先に事実が公表されることが多く、その後に会計の開示のケア的に訂正報告書が出たとしても、株価には織り込み済であるためです。
つまり、最後の「単純な会計処理誤り」以外については、影響は原定的なものに留まると推定できます。
しかし、最後の「単純な会計処理誤り」は、先に事実は公表されていないことが多い点で事情が異なります。
単純な会計処理誤りなどということは、法定監査が行われている上場会社では、通常ありえないことです。
訂正報告書の理由に、このような、「~会計方針の適用を誤ったことにより~」と書くことは、
- 当社の経理部のスキルが、未熟
- 当社の担当の監査法人のスキルも、未熟
ということを言っていることと同じです。これは、自社のJSOX上も、訂正報告書になる可能性が、通常、高いです。
また、監査役(会)による会計監査の部分も、「その部分の適法性が毀損している部分が有る可能性がある」、いうメッセージを送ってしまいかねません。
そこで、、、、
どうせ遡及修正をするのが避けられないのであれば、同時に監査人を交代することで、
- 自社だけが悪いのではない(監査法人も悪い。。。)、
- 会計監査人を変更する位の覚悟で、自社の経理・開示体制を抜本的に見直すつもりだ、
をメッセージを届けたい、と考える上場会社がある、ということです。
訂正報告書は出ます。しかし、前任監査人の担当期間の分を、後任監査人が訂正報告書を出す形になるため、見かけ上、前任監査人の監査がダメだったせいである、という’イメージ’が創出されることが期待されます。
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以上を踏まえ、私は、以下のように説明し、セットですることを肯定しております。
従前の会計監査人の中には、場合によっては、過去の誤りを、ずっと飲み込んできた監査人もいるかもしれません。
そのような監査人にとっては、会社からいきなり最後通牒を突きつけられることになるので、納得できない思いもあるかもしれません。
監査人の交代の際の、監査人側からの説明に当たり、何か一言、言いたい衝動にかられる人もいるかもしれません。
しかし、監査人の交代に係る、監査人側からの説明の事例をみると、特記事項なしが殆どです。
これは、監査人自身、それが自分の役割なのだと承知されているからなのではないでしょうか?
何か説明をすると、それが会社の株価に悪影響を及ぼすリスクをはらんでいます。
これまで監査してきた会社に迷惑をかけるようなことは、したくない、監査人を降りるだけですし、それ以上のダメージはない訳ですから。
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