上場会社の監査法人の交代、会計監査の実務などを解説しています。

監査法人を交代しない、できない・・・と誤解していませんか?

経理担当者の知人に、「上場会社にとって、監査法人を交代しない、できない事情、特に大手監査法人から中小監査法人へ変更できない事情を、思いつく限り挙げてみて。」とお願いしたところ、以下のようなことを挙げてくれました。

  1. そもそも、現在の監査法人の支援サービスに満足しているので、交代してもらう気がない。
  2. とにかく、大手監査法人の監査証明のじゃないと、イヤ。
  3. 企業グループの一員の立場なので、グループの親会社の監査法人の監査を受けるしか、選択肢しかない。
  4. 監査業務以外の、アドバイザリー業務で、同じ系列の監査法人のコンサルティング会社に依頼しているので、その連携がなくなると困る。
  5. 海外子会社の監査を、同じ系列の現地の会計事務所に依頼しているので、その連携がなくなると困る。
  6. 監査法人を変えることで、株価に悪影響を与えるメッセージになっては困る。
  7. 今の監査法人に粉飾や不正を指摘されて、それを回避したくて監査法人を変更したかの風評になっては困る。
  8. 過去に監査法人を変更した経験があるので、また変更すると、監査法人をコロコロ変更する会社、と誤解されるのは困る。
  9. 過去から、ずっと、開示を誤っている箇所があり、それを新任の監査法人から指摘されると、困る。

以上のうち、1.であれば、会社もハッピーですから、監査法人を交代する必要はありません。また、2.も、変更する選択肢はないでしょう。

しかし、3.以降は、、、「ああ、一般には、こう誤解されているんだなあ」と思った次第です。これらは、情報不足による誤解です。具体的には、以下の通りです。

上記3. →

グループ会社の9割方は、たしかに、親会社と同じ監査法人が担当していますが、少なくとも、100%が、親会社の監査法人である訳ではないことが殆どです。

M&Aで最近取得したところは、オペレーションが落ち着くまで、監査法人を交代することを嫌います。

関連会社程度の緊密さの場合には、当該関連会社の自主性が尊重されるため、昔からの会計士が担当している、という会社様は意外とあります。

上記4. →

大手監査法人でアドバイザリー業務に従事していた経験から思いますに、、、そもそも連携していることに特段の配慮はしていないと思います。

もちろん、双方で同一の会社様へ業務をしていることは承知していますが、監査法人側からは「独立性」に配慮し、あまりタッチしないスタンスです。

上記5. →

これも同様で、少なくとも、監査契約上、お互いに別個である限り、特段の配慮は行いません。

海外の会計事務所の多くはコミュニケーションが悪いので、ヘンに配慮してしまうと、親会社の監査人が、海外現地子会社と現地会計事務所の仲介をするという羽目に陥ることが往々にあるので、タッチしない、というスタンスです。

上記6. →

以前、監査法人を変更した直後の株価を調べてみたことがありますが、その結果を端的に申しますと、監査法人の交代と株価との相関関係に有意性は無い事例が圧倒的でした。

上記7. →

10年前でしたら、このような懸念はあったかもしれません。しかし、最近は、これだけ毎年、監査法人が交代している中、交代が引き金になって粉飾や不正などの風評が生じた事例は認められておりません。

※ それより先に粉飾や不正の風評があって、その後に監査法人が交代した、というケースは、含みません。

上記8. →

上場会社の中には、「3年おきに、監査法人を交代する」という自主ルールを運用している会社が、確実に増えています。今は、監査法人を交代することは、「コロコロ変える」ではなく「積極的に見直している」という、プラスと捉えられる可能性さえ、あります。

上記9. →

そもそも、「過去の開示上の誤りがあるからといって、直ちに、訂正報告書を提出する」訳ではありません。

以前、監査法人を変更した直後の有報を調べてみたことがありますが、その結果を端的に申しますと、監査法人を変更した会社のうち、交代後の2年以内に訂正報告書が出た会社数は僅かであり、監査法人が交代した会社で、必ず訂正報告書が発行されるわけではありません。


[シリーズ] 監査法人の交代について

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