解説
1 経理担当者にとって気になる?点
経理担当者が作成する繰延税金資産の計上資料は、将来減算一時差異の全部に実効税率をかけて算出しているか、長期性の項目に実効税率を乗じたものか、無計上か、のいずれしか見たことがありません。
企業会計基準適用指針第26号 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(平成27年12月28日)(旧「監査委員会報告66号 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する実務指針」に示される会社分類で、自社の分類が変わるタイミングでは、変更後の分類に基づく計算ロジックに変わるため、計上額が従来よりも大幅に増減する可能性があります。
「現任者が、前任者のときの会社分類での計算方法だけ引き継いでいた場合」などでは、会社区分が変更する際に、繰延税金資産の計上額に過不足が生じるという虚偽表示が発生する虞があります。
2 経理担当者に理解してほしい点
主査は経理担当者へ、繰延税金資産の回収可能性のスケジューリングをした表、すなわち「将来期間の課税所得の金額との対比で、将来減算一時差異の解消時期と金額を、パッチワークのように配分する表」を作成・提出することを希望しますが、これを正確に作成することのできる経理担当者は多くはありません。
理想は、経理担当者が上記の表の作成方法をマスターすることでしょう。監査法人の立場から言えば、上場会社にはJSOXがありますから、親会社分のみならず各連結子会社での計上分についてもJSOXの建て付け上では、親会社の経理担当者が予めチェックしてあるはずです。
しかし本社の経理担当者にとっても、将来の課税所得の見積りや将来減算一時差異の解消時期など、見積れといっても悩みだすとキリがない代物で、手が動かない、という感じに陥ってしまうようです。
ですので、実務的にスマートな対応としては、繰延税金資産の回収可能性検討シートを経理担当者側で完成することに、経理担当者も主査も拘ってはいけないと考えます。
私の場合を紹介しますと、ある時から、経理担当者に繰延税金資産の回収可能性シートを作るよう依頼することは止めました。
多くの会社では四半期での税効果は前期末の計上額を利用して簡便的に計算することで足りますが、会社区分が変更になるとそれが使えなくなりますし、その変更の計算は1Qから織り込んでおかないければなりません。
そこで、経理担当者としては、来期に会社分類が変わると見込まれる対象会社について、当期末の時点で翌期の1Q四半期での計上方法まで話を詰めておくようにしておく必要があります。
そしてその際には、繰延税金資産の回収可能性シートを直接完成するドラフトを一人で作るのではなく、このフォーム上で、テーブルで差し向かいで、将来減算一時差異等を一つずつ検討し、繰延税金資産の計上額を計算するシートを「その場で」作成してしまう、のが合理的でしょう。
このような段取りを持ってもらえると、主査も独立性に抵触することなく、協議に応じてくれると思われます。
3 念のため補足する点
監査法人側の監査調書上では、会社が想定している仮定と算出過程と計上額が目の前にあってゴールにあって、それにパッチワークを合理的な範囲で調整して会社計上額に一致させているか、理屈をつけて結果的に会社計上額が回収可能金額であると結論付けているだけであり、経理担当者よりも負担感が少ないのです。
ですので、経理担当者が繰延税金資産の回収可能性を作成するのは、負荷が大きい作業であることを、監査法人の主査も自覚する必要があるでしょう。
【経理担当者にとって】
繰延税金資産の回収可能性検討シートは、監査法人と協議して一緒に作りましょう。