解説
1 経理担当者にとって気になる?点
以下、主査とは、現場の監査実務で会社の窓口となる会計士を指します。
PMは主査が監査責任者と協議して(実際は主査が提案し)、審査担当社員が承認します。
別の箇所でご説明している通り、PMの取り方には唯一の取り方はなく、幅があります。主査は、その幅の中で、どれを選択する傾向があるのでしょうか?
2 経理担当者に理解してほしい点
結論から言うと、主査にとってのPMとは、「監査上、修正しなくてよい金額の枠としてのPMが、できるだけ大きくなる指標を採用しようする思考になります。
別の箇所で詳細にご説明している通り、主査の仕事は、「監査法人内の審査に間に合うように監査を予定の期間内に終了し、監査法人の審査に掛けて、無限定適正意見を出すことの了承を得ること」です。
この「監査を予定の期間内に終了」の障害になりうるケースが、
① 虚偽表示である会計処理・開示を、監査クライアントが修正に同意しないケース
② 監査クライアントの決算が遅れて、審査日までに監査に一部未了が残ってしまうケース
の2つのケースです。
これらのケースに対する保険としてPMを予め大きくとっておけば、①のケースでは、その金額を加算してもPMの枠内であれば修正をしなくても問題が無く、②のケースでは、「監査未了部分からは、もはやPMを超えるほどの虚偽表示は出ないという状況まで監査が済んでいれば、実務的には問題ないでしょう。
以上の背景があるため、主査はまず、監査の計画時(3月決算期の場合は、通常、夏頃)に、前年の監査の結果を踏まえ、後述する虚偽表示の前期からの繰越額や今年予想されるバッファーを勘案して、PMの指標を決めます。
従来と異なる指標を採用する場合、特に、従来よりも金額が大きくなるような指標に変更する場合には、多くの監査法人の監査マニュアルでは、監査調書上、それが従来よりも望ましい理由を付すルールとしています。
なぜなら、PMが大きくなることは、それだけ監査上詳細に検討しない金額が従来よりも増えることになるため、監査上、問題点を見逃す潜在的なリスクが大きくなるため、あくまでも合理的な範囲での変更に抑えるのが主旨です。
そして期末前の時期(3月決算期の場合は、通常3月頃)を迎え、監査クライアントと決算の方針を協議する中で、例えば、会計方針に関する会社との協議が不調のまま進んでいて、現状の重要性の基準値の金額の枠を超えてしまうことが予想される場合には、重要性の基準値を変更することにより、虚偽表示の枠に収まる伸びしろを取っておくようにします。
ですので、ベースと指標の組み合わせによって、PMが大きくなるような基準値を設定する傾向があります。
3 念のため補足する点
以上の考え方を一歩進めれば、「このPMの金額の枠を監査法人と経理担当者とで共有して、いくつかの会計処理で虚偽表示を敢えて残すことを予定するような協議をすることができる」ことも可能になります。
「それは、監査を歪曲しているのでは?」とお叱りを受けるかもしれませんが、そのこと自体は合理的な理由がある限り、許容されます。
しかし、他人に心配されるまでもなく、これに流されてしまうと自分の首を絞めることになってしまいます。
なぜなら、監査を歪曲するように、監査クライアントの要望を丸のみしてPMの範囲内に収まるような数字いじりだけの対応しかできない会計士は、早晩、PMの枠を使い尽くしてしまい、毎年大なり小なり出てくる新しい会計・開示上の課題に対し、身動きが取れなくなってしまうものだからです。
通常の主査、つまりうまく現場をハンドリングできる、監査クライアントとコミュニケーションがとれる主査であれば、PMを意識しつつも、その枠に余裕を残して経理担当者と協議しています。
そうすることにより、会社と協議しながら課題を共有し、処理していくとこができるのです。
【経理担当者にとって】
主査も本音では、PMの指標は出来る限り金額が大きくなるものを選びたいと思っていることが通常です。