【2020.4.6追記:「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の講評に伴い、青字で追記しました。】
解説
1 担当者にとって気になる?点
請求書が来ない場合には、通常、経理処理としては起票はしません。
しかし、売上を計上済の場合、そのままですと、売上原価が過少です。
虚偽表示としてカウントされてしまうと不安になる経理担当者もおられるかもしれません。
2 経理担当者に理解してほしい点
工事などでは、既に売上計上した物件のうち、原価となる請求書が期末に未着というケースが稀にあります。価格が決まらないので、仕入先が発行しないという理由が大半です。
考え方としては、費用収益対応という会計の基本ルールから、決算上、いまだ未計上である原価相当分を、合理的に見積って売上原価として計上してもらう必要があります。以上の見積りで問題になるのが、その金額と表示科目です。
まず金額ですが、考え方としては、別のテーマで検討した「金額の見積り」の考え方に沿って金額を見積もることになります。
従来は、見積もるといっても、実際の金額の精度は、それほど神経質になる必要はなく、実務上は、なにかしらの客観的な資料中の数字に紐付けて算出してもらえれば足ります。具体的には、工事の予算書にある費用内訳を基礎に試算してもらえれば十分でした。
なお、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が公表されたことで、今後は、重要性があるものは注記開示に格上げになるため、監査法人も相応の合理性、厳密性を求める可能性が高まりましたので、今後は、以上の運用が若干厳しくなると予想されます。
監査対応上、想定されるのが、その金額が多額であって、当期の利益の赤黒を反転する程度のインパクトを持つ場合には、いわゆる健全な懐疑心上、利益操作の可能性を勘ぐられる可能性があるため、そうではないことを説明するために、例えば、営業担当者から、仕入れ業者との最新の価格交渉中の金額の資料を入手し監査法人に提供することが必要になるかもしれません。しかし、そのようなケースは稀と思われます。
そして表示科目ですが、実務的には、未払費用が使われることが多いと見聞きします。
会計理論的には引当金で計上すべきなのですが、スポット取引ですので、開示上(そして監査法人にとって審査上)手間がかかる引当金はパスし、他方、見積りですから確定債務ではないので、買掛金や未払金は使えない、ということで、消去法的に未払費用が使われるようです。
なお、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が公表されたことで、今後は、重要性があるものは注記開示に格上げになるため、外部から間違っていると指摘される可能性のある科目の使い方は監査法人から否定される蓋然性がありますので、今後は、以上の運用が若干厳しくなると予想されます。
なお、このような取引がある場合、通常の懐疑心を有する主査であれば、価格が折り合っていないために請求書が未着であり、その原因として後発事象に準ずる事象が発生しているのではないか?と推定します。
ですので、主査に説明する時には、そのような懸念は無いこと、具体的には、近々に金額は確定し、請求書は繰る見込みである点を中心に、主査に説明をすると良いと考えます。
3 念のため補足する点
債務を処理する科目は、以上のように、通常未払費用ですが、買掛金、未払金、未払費用といった科目は、意外と会社ごとに過去の経緯や慣習でユニークな使い方をしていることがありますので、それとの整合性にも配慮する必要があります。
この見積金額は、後に確定金額と洗替処理され、差額は営業外損益で雑収入か雑損失で処理されるのが通常ですが、その期のPLで営業外損益項目上、財務諸表規則等で独立科目表示になってしまうようだと、敢えて営業外損益とはせずに、売上原価の増減で処理してしてしまうことも、実務上はあります。
【経理担当者にとって】
支払い請求書が期末に未到来の場合には、精度うんぬんより先に、合理的に見積もって計上することが大事です。