解説
1 担当者にとって気になる?点
固定資産の減損は影響額が巨額なので、監査法人から減損を計上してくれと迫られると、拒否すると虚偽表示のトータル金額が一気にPMを超えてしまう可能性をはらんでいて、無限定適正意見を得ることが難しくなる可能性が高くなります。
ですので経理担当者としては、決算中に監査法人から急に減損するよう言われないような仕組みを構築しておく必要があります。特に、固定資産の時価は、そのまま「賃貸不動産等の時価情報」へも流用されるため、毎年、時価を毎年集計又は算出する仕組みを整備しておく必要があります。
2 経理担当者に理解してほしい点
JADAQクラスの上場企業では、そもそも、決算資料として、減損の兆候を検討した資料を作成している会社は、決して多くありません。
そして、監査法人から、これとこれが減損の実施を検討する必要があると言われてビックリし、やおら、時価を高めに出す鑑定書に頼ったり、それでも時価が足りないと、屁理屈をつけて減損の実施を見送ることを監査法人に提案する、という後手後手の対応に陥りがちです。
そこで、、賃貸不動産の時価情報、固定資産の減損は、決算前、3月決算期の会社であれば、2月末までには、確定しておくことを推奨します。
監査法人とのMTGの開催時期ですが、固定資産の減損が課題となっている年度では、3月中に主査と握っておかないといけないと考えます。このためには、逆算して、時価の評価を2月中には「完了」しておく、つまり逆算して1月中には鑑定業者に発注する必要があります。
固定資産の減損の要否の基礎となる、時価情報は、3月決算期の場合、3月末時点での時価を利用しなければなりませんが、多くの固定資産については、期末日の時価と、その2か月前の1月末の時価とは、殆ど変わりません。
ですので、1月末時点を基準に2月中には固定資産の時価を算出しきってしまい、3Qのレビューが終了した直後に、年度末の決算で減損を認識するしないを、監査法人と協議し、合意してしまうのが、スマートな段取りです。
結果として、会社が減損を実施しないことに監査法人が同意するか、又は、会社が監査法人の主張を受け入れて減損を実施する限り、もちろん虚偽表示にはなり得ませんので、PMを考慮する必要はありません。
そして、前年の固定資産の減損の検討で、次年度の減損の認識の可能性が高いことが判明すれば、1年かけて対応を検討することができます。
固定資産の減損を回避しようとして会社側から持ち出される案で多いのが、事業区分の変更で、利益の出ている事業の共用資産へ変更するというものです。
実際に用途等の実態も変更する場合と、事実認識を訂正する場合があります。
しかし、いずれにしても変更する場合には、今度はセグメント情報の資産の金額の計上区分の変更になり、その金額によっては、追記情報や遡及修正の要否を検討するとなり、PMを意識しないといけなくなります。
協議の最終段階は、時価をめぐる協議になります。
DCF法により時価を膨らませるだけ膨らませる鑑定書を時価の根拠とすることは、固定資産の減損の実務指針で例示されている簡便的な時価の評価方法による時価と比較して著しい乖離があれば容易にそう推定できますので、時価の根拠としてそもそも信憑性がありませんから認められません。コストの無駄です。
3 念のため補足する点
経理担当者の中には、そもそも時価がなければ判断のしようがない→減損を判断できない、と考えて、鑑定書を取らないことで逃げられると勘違いされる方がおられます。
その場合、監査法人は、不動産鑑定士が評価するほどの精度はなくても、自分が取り得る合理的と判断する方法によって時価を計算するものです。そのような時価は、たいてい、専門家の時価より低く出ることが多く、却って減損を要求されるだけです。
そして、特殊で時価の算定が会計士の能力の限界を超えている場合には、測定不能ということで、意見差控のリスクの方が高まってしまいます。
【経理担当者にとって】
固定資産の減損の兆候の有無を一覧できるリストを決算資料として作成しておく必要がある