解説
1 担当者にとって気になる?点
監査法人から、前年の期の資料を依頼されたことはありませんか?
「なんで今さら?」という疑念や、「何か調査しているのかな?」「新聞に出ていた「抜打監査」かな?」などと心配になります。
監査報告書を受領して終わった期のことを、蒸し返されるようで、決していい気はしないと思います。
2 経理担当者に理解してほしい点
実務的に一番あり得るのは、会社側の話ではなく、監査法人側の話です。会社の調査うんぬんではなく、監査法人がJICPA品質管理レビュー対応のために、未完成の調書を作成するためです。
前年度の監査は、その時の監査報告書が提出日をもって完了します。
ですのでそれ以降は原則として監査調書をいじってはいけません。いじることは監査が終わっていないことになるためです。調書の体裁を直す程度の添削は監査報告書の日付から2か月以内に限って認められていますが、あくまで例外です。
品質管理レビューでは「調書が残っていないことは、監査手続きをしていない」というスタンスが前提です。予めレビュー対象の監査クライアントは指定されていますから、レビュー時に調書が無いとの指摘を受けないよう、未作成の調書があれば、レビューの前に後追いで作成していることがあるようです。
以上は中小規模未満の監査法人で散見されるようです。
この点、大手監査法人で使用されている監査業務アプリケーションは、海外のメンバーファームで使用されているものを日本語環境化したものであり、最終入力日が自動で打刻されますし、また監査報告書日の2か月以内に調書をロックする処理をいけないルールを課し、違反した場合には処罰されるというルールが厳然と運用されています。
しかし、海外ではPCの日付設定を変更して調書閉鎖期間後も入力していたという事例もあるそうで、全部の監査調書が期限までに完成しないのは世界共通のようです。また紙の調書についてはハンコの日付ですから、レビュアーの立場から見れば、どこまで行っても疑念は残ります。
3 念のため補足する点
過年度の資料を依頼するのは、いろいろな事情があるからかもしれませんが、監査チーム側も、経理担当者に無用な疑念を持たれないような配慮が必要だと思います。
また、調書の日付については、私自身、JICPA品質管理レビューを受けた時に、調書整理期間内に作成済の調書を、期間後に作成したのではないかと詰問されるという悔しい思いをした経験があります。しかし期間後に作成したのではないことを証明する(=ないことを証明する)のは「悪魔の証明」であり、実際には難しいですし、レビュアーもそれを敢えて確認するのが仕事ですから、閉鎖期間後にいつまでも調書の修正を繰り返すことのないよう、またそのような疑念を持たれないよう、公証役場における確定日付の付与のような仕組みを導入することも必要かもしれません。
【経理担当者にとって】
前期の資料を求められるのは、監査法人が未了項目の資料を依頼しているだけの場合が大半なので、心配は無用です。