解説
1 経理担当者にとって気になる?点
誤りとして残った金額合計額が重要性の基準値を下回ったたとしても、その誤りの内容が不正等に基づくもので悪質であれば、無限定適正意見とは別の意見になりうる余地があるのでしょうか?
2 経理担当者に理解してほしい点
結論から言うと、それはありません。
その理由は、ざっくり言いますと、リスクアプローチを前提に監査をしているので、誤りの金額を集計する過程で、そのようないわば質的ともいうべき内容も金額に引き直されている、と言えるからです。
つまり、経理担当者側から言い直すと、
誤りの金額合計 < PM である限り、無限定適正意見であることが確保される
となります。
3 念のため補足する点
監査と不正とは、つながりやすい言葉同士のため、世間の方は、「監査法人は不正の摘発という思考で行動している」と誤解することがあります。
監査上、虚偽表示は金額の多寡に関係なく、どの監査でも必ず発生します。他方、不正はむしろ発生することの方が稀です。
ですので、「主査は、(不正の摘発ではなく)PMの思考で行動している」のが現実です。
不正はあってはなりません。しかし、価値判断として、不正を重視すると、究極的には、虚偽表示の金額が重要性の基準値を下回っても、監査意見は不適正意見になりうるという、リスクアプローチの根幹が変容してしまいます。
最近、不正発見目的の監査基準が導入されていますが、別のところでも書いている通り、それは、従来のリスクアプローチの中の、「正当な懐疑心」を強く持ち、深度ある監査手続きを励行するものであり、それ以上のものではありません。
なお、不正が発覚すると、JSOXの方が不適法意見になるケースが散見されます。
【経理担当者にとって】
「修正後の虚偽表示のトータル金額 < PM」 である限り、無限定適正意見であることが確保される。