上場会社の監査法人の交代、会計監査の実務などを解説しています。

41 監査法人は、なぜ分析的(実証)手続にあれほど拘るのでしょうか?(2020/12/4字句修正)

解説

1     経理担当者にとって気になる?点

監査法人は分析的手続を多用します。その際に使用する資料はエクセル形式の(親会社を含む)連結各社の試算表、支店別の試算表などが代表格ですが、そのため分析的手続に使うための資料を監査法人から求められる経理担当者も多いと思われます。

経理担当者の方からみると、「趨勢や増減だけ見るだけで個々の内容を見ないなんて手抜きだな」「数字の羅列なら、自分たちで作ればいいのに」と思われるかもしれません。

しかし、監査人にとって、分析的手続はいろんな意味で有効であるため、ついお願いしてしまうという事情もあります。

2     経理担当者に理解してほしい点

分析的手続とは、財務データ間または財務データと非財務データの間にあると見られる関係を推定し、分析・検討する監査手続の総称です。具体的には趨勢分析、比率分析、合理性テスト、回帰分析などがあります。

上の意味では、財務諸表全体を対象とするイメージであり、期末に科目ごとの残高の妥当性を検討する実証手続とは次元が異なります。

しかし、その扱うデータを、各勘定の内訳金額のそれにすれば、実証手続に近い効果が期待できます。

例えば、売掛金の監査手続を考えます。「売掛金の期末監査に、分析的手続を適用する」と言われると、上の例示から、「売掛金a/cの残高(一本の金額)」「売掛金a/cの内訳金額」とイメージされます。総勘定元帳の売掛金a/cの合計金額や内訳金額と当然一致するハズです。直接、総勘定元帳を見て、そこから周辺取引を見ていくのとは異なるのですが。。。

でも「異なるですが」、「近い」点を都合よくとらえ、分析というネーミングにもかかわらず、その実は、期末の実証テストの範疇に入れられます(以下「分析的実証手続」といいます。)。

例えば、資本金は、通常、前期から増減がありません。ですので、当期に増減資したという情報でも無い限り、分析的手続を実施して、資本金の科目の前期末の残高と当期末の残高を比較して金額の増減が無いことを確認して、手続は終了とすることが通常です。

これを後付的な理屈をつけようとしますと、、、この場合の以上の作業は、統制テストではないという意味で、実証テストに含まれますし、これだけで必要十分な手続きとも言えます。

実証テストというと、確認状を大量に送付・回収してフォローしたり、有価証券の現物を人工をかけてカウントする、といった、「手間のかかる手続」が通常なので、それに比して簡便(しょぼい)手続きである分析的実証手続が、同じ範疇に括られるのは一見、違和感がありますが、以上の資本金の科目の場合の例のように、状況によっては十分成立します。

ゆえに、分析的「実証」手続は、監査人にとって、その手間が他の監査手続きに比して簡便(しょぼい)のですが、合理的な結論を得るための費用対効果の高い方法であるという、魅力的な特徴があります。

分析的実証手続のための資料は、単純に、試算表からCSVデータを掃き出して単純にできるというものではありません。科目の増減もあったりしますし、単位を千円単位にしてくれとか、しかも千円未満を切り捨ててにしてくれとか、表示組替後の科目ベースのものも追加知れくれとか、個別と連結の両方下さいとか、増減金額欄と増減率の欄を付けてくださいとか、一定金額以上の増減のあるものには、その理由を調べて追記してくださいとか、、、、人のリクエストはどんどんエスカレートします。

そこで経理担当者の中には、「そのように重要な分析手続であるならば、いっそ、監査法人が自分たちで作ればいいのに、、、」と思われる方もおられるかもしれません。

実はそれは正しいのです。

しかし、会社と監査法人との間の作業上の貸し借りのようなところで、どちらで作るのかは決まっているようです。そして、会社に作ってもらった場合には、そこにある金額情報が最終試算表の金額を基礎としているというチェックをしたうえで利用することになっています。

3     念のため補足する点

究極的には、分析的手続きだけでOKなのかもしれませんが、さすがにそれでは、いきすぎ(手を抜きすぎ)です。実際、大手監査法人の監査マニュアルでは、状況ごとに、実証的手続きとして分析的「実証」手続を使用してよい割合が規定されています。

逆に言うと、監査チームはそれ以外は、実証手続をしないといけないという縛りをかけられているとも言えます。

そして、昨今の上場企業の粉飾事件の際に、この分析的実証手続が金融庁当の指摘でやり玉にあげられました。

それに呼応するように、監査法人の品質管理部門から、「分析的実証手続を適用する際には、その対象金額を生成する会計システム等の信頼性を確認する」というひと手間(どころではない手間)が必須という方針が指示され、分析的実証手続は、上でいうの「魅力的」さが小さくなってしまい、監査チームによっては、分析的実証手続を減らし、、、、膨大な証跡を会社に全国から本社へ取り寄せてもらい、本来の実証手続を増やしている、という話を見聞きします。

結果的に、「従来、誠実に監査対応をしてきた上場会社が割を食っている」、そんな状況かもしれません、

【経理担当者にとって】

分析手続で済ませてくれた方が、トータルでの監査対応作業は少なくなるはずなので、協力してあげましょう。

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