解説
1 経理担当者にとって気になる?点
経理担当者で主査の会計士とやり取りしている方は、一年に、、、10回は「審査があるので」というフレーズを聞かされるのではないでしょうか?
「あなたはいつも、自分の監査法人の中の審査ばかりを向いていて、監査クライアントの方を向いていませんね」という言葉を飲み込んでいる経理担当者の方は、少なくないのではないでしょうか?
2 経理担当者に理解してほしい点
主査にとって審査が問題となるのは、グレーゾーンの取引の会計処理・開示で、審査にダメ出しをされたら、会社が訂正に応じてくれない限り、無限定適正意見の監査報告書を提出できなくなってしまうためです。
では、「その場合には、限定付意見か不適正意見か意見差控になるなら、粛々とそうすればいいだけではないか?」というと、話はそれほど簡単ではありません。不適正意見が表明されることは東証の上場廃止基準に抵触することになり、これは早々生じないことから、その確率は高いからです。
では、「じゃあ、主査は、会社にその取引はダメだよ、と言えばいいじゃないか?」というと、話はそれほど簡単ではありません。会計処理いかんで会社の利益はカンタンに上下しますし、会社の利益が少しでも上向くように仕事をするのも、経理部員の仕事ではあるので、可能な範囲で利益が出る会計処理を認めてほしいのは経理部の本音です。また、会社は監査法人に監査報酬を直接支払っていますから、自分たちの処理を認めてほしいと思っているのが本音です。また、監査法人も、許される範囲であれば、本音ではそのような期待に応えたいと思っています。
まず、経理担当者にとってなじみのない「監査法人の審査」とはどのようなものなのかを、概観しておきます。
監査の品質を確保する上で、入口の生命線が監査マニュアル等の充実であるならば、出口の生命線は審査制度です。「審査を通過しないと、外部へ監査報告書を提出できない」というルールの上で、審査の行為自体を厳しくすることで、品質管理が可能になるという訳です。
上場会社1社について、①年度監査の計画審査、②JSOXの計画審査、③四半期レビューの計画審査、④(決算前の)事前審査(省略可)、➄(監査意見表明前の)決算審査、があります。
省略可能な④を除き、全て文書と場合によっては会社資料等の根拠資料を提出してもらう必要があります。
そして➄については、いわゆるグレーゾーンな取引を監査上妥当とするような場合には、書類だけではなく、複数の審査員にプレゼンして審査を通してもらうようなことも生じます。
「そんな煩雑なことなら、ナイショにしてしまえば、、、」という悪魔の声が聞こえてきそうですが、重要な虚偽表示を審査に報告せずに監査意見を表明して、その後にその事実が判明でもしようものなら、その業務執行社員は監査法人の除名対象になります。
それはルールで縛っているというよりは、そもそも監査法人が原則として社員相互で連帯責任を負う構造になっているため、組織の性格上、絶対に守らないといけない、掟のようなものです。
大手監査法人には、数多くのクライアントがあります。ですので、大手監査法人などでは、審査の専用部署があり、専門スタッフが常駐しており、毎年決算前に法人職員向けに研修の形で審査の対象項目から審査のやり方等まで周知徹底したり、監査ごとに審査担当者を割り当てたり、審査スケジュールを立て、それに沿って審査業務を運用しています。
ですので、監査チームとしては、その審査スケジュールに合うように、審査資料を作成する必要があります。
3 念のため補足する点
主査が、仮に、会社から「実質価額が低下している子会社株式について、回復可能性があるから、当期は強制評価減を要しないでよいか?」との相談を受けた時に、
・つい、楽観的に「了解しました、大丈夫です」などと言ってしまい、
・つい、忙しいので、事前審査を受けず、
・つい、決算審査一発で通そうとして審査で✕となる、
と、どうなるでしょうか?
審査でダメ出しを受けた場合、時間的な猶予が残っていたり、またその直後に新事実が判明したら、書類を作り直しての再審査もあり得ますが、そうでない場合には、この場合には会社へ子会社株式の評価減をしないと無限定適正意見は出せないと、会社に通告することになります。
会社としては、事前に相談し、主査の了解を取っていたつもりで、決算を組んでいますから、ビックリですが、ビックリだけではなく、後始末で金額が変わる説明を社内外にする羽目になりますし、監査法人の主査に対する不信感、恨みが募ります。
【経理担当者にとって】
主査は、審査スケジュールに合わせて作業をしている。
監査責任者がOKと言っても、審査でダメ出しがなされる可能性があるためである。