解説
1 経理担当者にとって気になる?点
監査上の重要性の基準値の指標としては、多くの監査法人で、通常、
・前期末の、
・(連結)損益計算書の
・「税引前当期純利益の5%」の金額
を採用することが多いです。なぜこの指標なのでしょうか?
2 経理担当者に理解してほしい点
「監査上の重要性の基準値」は、いわゆる大手監査法人のうち、複数で、「PM」と略称されておりますので、以下、PMと称します。
PMの指標として、「前期末の、(連結)損益計算書の「税引前当期純利益の5%」の金額を採用する理由としては、財務諸表の利用者の最大の関心は税引前当期純利益の金額であることが多いので、公認会計士の監査上でも、その5%程度の誤差であれば許容していいであろう、という価値判断に基づくものと推定されます。
(後述する、JSOXの、いわゆる実施基準の中でも、重要性の指標として、「税引前当期純利益の5%」が例示されています。)
ただし、例外的に、税引前当期純利益の5%を採用することが適当でない場合があります。
例えば、前期末の連結税引前当期純利益がたった10万円だったとしたらどうでしょうか?
その場合には、10万円×5%=5千円以上の誤りのミスがあれば、財務諸表は無限定適正意見にはならない、となり得ますが、監査実務で間違いが5千円未満で終わることは稀でしょうし、経理担当者のプレッシャーを考えると、納得のできることではありません。
また、最近の数年間の業績の変動が著しい、すなわち税引前当期純利益の金額の増減が著しい場合には、単年度の金額よりも数年間の平均値の金額で見た方が、企業の規模感を反映させる点で望ましいでしょう。
そこで、そのような場合には他の指標を選択適用できるように、複数の指標をルールとして明文化して認めている監査法人が多いです。具体的には、
・(連結)損益計算書の、(連結)税引前当期純利益の過去5年平均の5%
・(連結)損益計算書の、(連結)売上高の0.5%
・(連結)貸借対照表の、(連結)資産合計の0.5%
等が挙げられます。
3 念のため補足する点
いわゆる「金額のベース」についても触れておきます。
会社内にある、「損益計算書の税引前当期利益」には、複数のものがあり得ます。具体的には、
・確定値としての直近(=一年前)の決算数字
・直近の決算短信で公表した、当年度見込の数字
・社内で承認済で公表前の、当年度予算の数字
・社内で承認前だが、更新予定の最新の当年度予算の数字
・期中の直近の四半期の数字
があり得ます。
この中で、監査法人は、
確定値としての直近(=一年前)の決算数字
を採用することが多いです。
なぜこのベースを採用するのかですが、私なりの理解では、株式会社は売上や利益を拡大する行動をとるので、前期末の金額をベースにしておけば、実態に合ってかつ保守的な数字をベースにすることになるので、監査判断上、望ましいと考えたのではと推定されます。
ただし、被監査会社が前期末に大規模な企業再編をした場合のように、被監査会社の経営環境が当期はガラッと変わってしまっている場合には、いたずらに前期の金額をベースにすることに固執することは不適切でしょう。むしろ、当期の会社の予算の金額等をベースにした方が合理的でしょう。
そこで、そのような場合に備えて、前期末実績以外の指標を選択適用できるようにルール化している監査法人が多いです。具体的には、
・取締役会等で承認された、当期の予算
・前年の決算短信で公表した、当期の予想売上高、利益
等が挙げられます。
【経理担当者にとって】
PMの典型的な指標は、税引前当期利益の5%