上場会社の監査法人の交代、会計監査の実務などを解説しています。

82 棚卸に立会っている監査法人の担当者がしたいことは、具体的にはどのようなことなのでしょうか?

解説

1     担当者にとって気になる?点

経理担当者としては、棚卸を早く完了したい事情もあり、会計士の立会は出来る限り早く終えてほしいと願っていると思いますし、早く帰りたいのは監査法人も本音では同じです。

なお、立会という言葉ですが、監査法人が、会社が実施する棚卸に「立ち会う」ことです。同じイベントのことを立場を変えて言っているだけであることを付言しておきます。

2     経理担当者に理解してほしい点

結論から言うと、監査法人の担当者が立会の監査調書を作成するために必要な作業とモノは、以下の8つと決まっています。

ですので、これらを時間内にモレなく準備してあげればよいのです。(★が付してあるものがモノ、付していないものは作業)

① 棚卸実施要領の当日版(=当日朝配付する版) (棚卸作業の手順、留意点、ロケーション図 など) ★

② (タグ方式ではなくリスト方式の場合)当該リスト ★

③ 目標の品目だけ、テストカウントをさせること

④ 最終仕入品の入庫伝票 ★

➄ 最終売上品の出庫伝票 ★

⑥ 預け在庫の、(相手先が発行する)預り証 ★

⑦ 預り在庫の棚卸をさせること

⑧ 滞留在庫を見せること

各々の件数について順に触れます。

①は監査法人担当者の人数分を渡してあげれば足ります。

②は①といっしょに、棚卸前のもの(=事前版)を人数分を渡してあげれば足ります。会社の棚卸が終わって資料用に保存するもの(=確定版)は、実は、監査人の作業上は使わないので無用なのです。

③はJSOXと平仄を合わせるため、トータルで25件以上カウントすると思います。それ以外はテストカウントに際し特別な配慮は無用です。

部品、仕掛品、製品、商品、貯蔵品ごとに平均して5品目ずつ、といったところでしょう。それらを、立会で回ったエリアから平均的に採取できればいいなと思っている程度です。これも、エリアが偏っていたかどうかは、後日、確かめることはできないため、あくまで監査法人の立会担当者の自己満足の領域の話です。

次に④と⑤ですが、共に2,3枚ずつといったところでしょう。

これに対して、⑥は原則全部入手する人が多いと思います。後日、本社で実施する棚卸資産の手続きで、この部分の金額を集計する場合があるためです。

⑦の数は、監査法人としては数えられる限り、程度で足りるため、好きな数だけカウントさせてあげれば足ります。

⑧は、在庫リスト中に含まれているものですが、立会の循環中に、「ああ、滞留在庫はここにあります」と指し示すのが大切です。
在庫システム上で滞留品の金額をシステムの機能で抽出できる会社であれば、口頭でその旨伝えるだけで足ります。
まちがっても「監査法人のために、当該抽出対象の在庫を、わざわざ一か所に集める」ようなことは無用です。
なぜならば、会計監査上は、通常のCPAであれば、それはIT業務処理統制の評価というくくりのところで検証するはずだからです。

対応上、大切なことは、「後日にフォローするコトやモノを極力残さない」ことです。
後日になりますと、4/1後の決算期に、地理的に離れたところでやり取りをするのはとても煩雑なためです。

ゆえに、以上の★を付したモノは、監査法人が帰路に就く前までにコピーで用意して、全て手渡しすることが、後日のやり取り仕事を減らすうえで大切です。

3     念のため補足する点

立会(=会社側から見ると、実地棚卸)のスケジュールについては、特別に注文を付ける意思がある会計士は少ないと思います。

むしろ、会社のスケジュールに合わせて行動をし、以上の①から⑥を収集するのではないかと思います。

ホテル業など、真夜中に徹夜で棚卸をする業種もあります。また生鮮加工業のように冷凍庫に入ることもあります。ですので、監査法人の担当者の許容度は高いと思ってよいと思います。

10年前の立会の実務では、「タグコントロールの最終完了を確認して立会を終了する」ことが励行されておりましたが、最近は棚卸の日程がタイトなため、その確認作業は立会当日にはせずに、4月以降に、上記②から➄と一緒に、本社で確認することが多いです。

また、棚卸の方法として、伝票形式かリスト形式かについて、監査法人から指摘されたらと心配な方がいらっしゃるかもしれませんが、そのような点にこだわる監査法人は聞いたことがありません。ですので、コストと手間を考慮し、どちらかにするか組み合わせて実施して構いません。

また、立会に監査役が同行する場合には、同じスケジュールで行動してほしいと依頼されたり、最初に現場の緊張感を高めるために挨拶(!)を頼まれることがあります。依頼されれば、当然、そのように対応すると思われます。

【経理担当者にとって】

通常の在庫の立会では、監査法人の担当会計士にとってマストの作業は決まっているので、スマートに対応できるはずです。

 

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