解説
1 経理担当者にとって気になる?点
監査法人が「この金額以下の科目は‘見ない’」という目安となる金額が存在するとなると、次に、「この金額以下の内容は‘見ない’」という目安となる金額が存在するのか?もし存在するとしたら、いくらなのか?を知りたいのではないでしょうか?
2 経理担当者に理解してほしい点
結論から言いますと、監査法人が「この金額以下の科目は‘見ない’」という金額も、あります。
この金額のネーミングは、PMやTEとは異なり、監査法人間で共通用語はないので、本シリーズでは、これ以降、「パス基準」と称します。
「最終的に、会計処理や表示の間違いの金額の合計が、監査上のPMを上回ってりいるか否か」を計算するために、監査法人の監査チームの各担当者は、監査の最初から、それらの間違いの金額を漏らさずに集計します。
しかし、それらの間違いの中には、金額が何万円、何千円、何十円のものもあるかもしれません。また、円単位未満は全て切り捨てすべきところ、全て切り上げしてしまっているような間違いもあるかもしれません。そのような一つ一つは僅少な間違いを、逐一、漏れなく記載することは、かえって監査を効率的に実施する妨げになります。
また、監査現場の経験上、ソコソコの大きさの金額の虚偽表示のものを集計した金額とPMとを比較することでも、十分、きちんと監査をしている、正しい監査意見を出せる、と言えると思います。
そこで、PM、TEに続く、3つ目のモノサシとして、「パス基準」を設け、これ未満の金額の誤りは気付いたとしても記録しなくてよい(=集計しなくてよい)、という整理になっています。
この金額も、先の「手続上の重要性」(TE)と同様に、各監査法人で監査マニュアルで定めているのが通常であり、具体的には「PMの5%前後」と定めているところが多いようです。
3 念のため補足する点
パス基準について、多くの監査法人の監査マニュアル上では、「監査法人が見なくていい金額」とは書けませんので、「虚偽表示の集計上、無視することが許容される」という書きぶりになっています。つまり、「それでも質的に重要であれば、少額であっても検証する余地がありますよ」という類の逃げの書きぶりにもなっていますが、繁忙な期末の実証手続にあっては、そのようなことをしている監査法人は殆どいないのではないかと思います。
ちなみに、この金額は、監査基準委員会報告450「監査の過程で識別した虚偽表示の評価」中では、「明らかに僅少な虚偽表示と判断する金額」と呼ばれています。
【経理担当者にとって】
パス基準の金額は、PMの5%(未満)としている監査法人が多い。