解説
1 経理担当者にとって気になる?点
ここでの論点は、「PMは複数あるのか?」という点です。PMは一つと想定ていて、複数あったら、TEやパス基準も複数あるはずなので、監査対応を間違えてしまうリスクがあるためです。
2 経理担当者に理解してほしい点
PMの運用は本来、単一の指標で運用する方が、監査法人にとっても分かりやすいはずです。
しかし、監査対象の内容によっては、より厳しい基準(つまり、より小さい金額)や、より緩和した基準(つまり、より大きい金額)を適用した方が、監査が合理的である場合があり得ます。
このような、いわば二つ目以降のPMは、新起草委員会報告書320「監査の計画及び実施における重要性」では、「特定の取引種類、勘定残高又は開示等に対する重要性の基準値」とネーミングされています。
それらについて、以下で、同320の中で例示されているケースを引用して説明します。
1 法令又は適用される財務報告の枠組みの要請により行われる特定の項目の測定又は開示が財務諸表の利用者の期待に影響を与えているかどうか。
この例としては、関連当事者との取引、取締役及び監査役等の報酬が挙げられています。
これらの開示情報は質的に重要性がありますので、監査の対象とされるべきものです。
しかし売上高何千億円クラス規模の巨大企業では、これらの開示情報の金額レンジは、PMひいては手続上の重要性TEよりも少額であるため、自動的に「監査上、見ない」ものにカテゴライズされてしまい、開示漏れのリスクがある項目が、明らかに監査漏れになってしまいます。
そこで、以上のような状況にある監査では、いわば質的重要性を重視して、メインで使用しているPMとは別個に、手続上の重要性TEから逆算して、いわばPM‘(PMダッシュ)を予め定めておく必要があります。
この意味の場合のTEひいてはPMは、メインで使用するTEひいてはPMよりも小さい金額になります。
2 企業が属する産業に関する主要な開示
この例としては、製薬会社の研究開発費が挙げられています。
科目の金額こそ飛び抜けて多額なものであっても、内部統制が有効と評価できるため監査上のリスクが認められない科目があります。
この類の科目を、他の科目と同じPMひいては手続上の重要性を適用してしまうことは、必要以上に細かく監査をしてしまう、いわば監査のやりすぎになってしまいます。
そこで、以上のような状況にある監査では、項目自体を見ないわけではないのですが、その深度を調整する工夫として、PMの例外として、個別に(手続上の重要性TEから逆算して)PM‘をあらかじめ定めておきます。
この意味の場合のTEひいてはPMは、他の全般に適用するTEひいてはPMよりも大きい金額になります。
3 財務諸表において別個に開示されている企業の事業に関する特定の情報
この例としては、例えば、新たに買収した事業の開示が挙げられています。
このような情報を監査するに当たっては、買収した当社のPMはいったんん棚上げし、買収した事業の特徴などにフォーカスしてPMを決定すべきであり、例えばのれんなどの特定の項目があればPMひいてはTEを低くしたり、逆に当社よりシンプルな事業であればPMひいてはTEを高くしてもよい、という判断ができます。
そこで、以上のような状況にある監査では、そのような柔軟な扱いをする余地として、PMの例外として、個別に(手続上の重要性TEから逆算して)PM‘をあらかじめ定めておきます。
この意味の場合のTEひいてはPMは、他の全般に適用するTEひいてはPMよりも大きい金額になったり小さい金額になる可能性があります。
3 念のため補足する点
「PM‘」に対する「TE’」や「パス基準‘」はどのように算出するのでしょうか?
結論から言いますと、通常のメインのPMに対する割合と同様で足ります。
つまり、TEダッシュは、PMダッシュの50%又は75%をTEとすれば足りますし、パス基準ダッシュは、PMダッシュの5%とすれば足ります。
【経理担当者にとって】
特定の項目について、例外的に、PMが別に定められることがある。