解説
1 担当者にとって気になる?点
経理担当者の多くが、見積りの金額で費用計上をしない理由の一つと目されることに、見積りの金額で法人税の課税所得計算をすると、将来の税務調査時に、損金として認められない=否認されることを畏れていることがあります。
本当にそうなのでしょうか?
2 経理担当者に理解してほしい点
以下、売上原価と販管費とその他に分けて見ていきます。
1 売上原価
売上原価となるべき費用の額が事業年度終了の日までに確定していない場合であっても、見積計上が認められます。これは通達に明記されています(法基通2-2-1)。
「見積りで計上されるとその分だけ課税所得が圧縮されますから、そのような見積り計上は税務調査で否認されてしまうのでは?」と直感的には思ってしまいますが、見積りで当期に計上するのも確定金額で次期に計上するのも単に期ズレの問題に過ぎないので、会計の基本ルールである、費用収益の対応を図ることを、法人税法上も是としているものと推察します。
つまり、売上原価として見込計上する分については、原則として、法人税の申告上加算処理を要しない、ということです。
もちろん、過大な見積り金額を計上すると、それは、「損金の過大計上」と認定される可能性はもちろんありますが、それは見積計上を許容することとは別の論点です。そして、何といっても上場会社で監査法人のお墨付き(!)を得ている金額を、税務署の担当官がひっくり返すのは、相当大変であろうことに鑑みると、当該見積金額の妥当性を監査法人がOKすれば、それで心配ないと思われます。
翌期の処理については明記されていないため、概算計上のままか、実際金額との差額を加減算するの、いずれも可になりますが、自家消費等であれば前者、支払相手先がある場合には後者になるでしょう。後者の場合、修正仕訳の貸方は買掛金等(さらに補助科目上、具体的な支払先)に加減算し、借方は単純に売上原価に加減算すれば足ります。
2 経費(販売費及び一般管理費)
いわゆる経費については、見積計上は認められず、厳密に債務として確定したものだけが損金算入することができます。債務確定とは、以下の3つの要件を全て満たしている場合です(法基通2-2-12)。
(1)契約等で債務が成立している
(2)役務の提供等の具体的な給付があった
(3)金額を合理的に算定できる
経費には売上原価に対応する売上のような、その支出の事実に紐づけられるものがないため、債務性を条件にしています。
ですので、例えば、派遣スタッフの人件費は、3月決算期の会社の場合、4月1日には当該スタッフから派遣会社へ3月の業務日報を提出し、4月2日には、派遣会社から自社へ請求書を提出してもらう、といった忙しいダンドリが必要になります。
3 念のため補足する点
経理実務上、支払相手先ごとに金額を確定させる必要があります。したがって、業態的に、支払先が多い業態の場合、見積り金額で計上する相手先が多いほど、後で確定金額との差を調整することがとても煩雑になります。
そして、場合によっては、1つの相手先から未払金と買掛金とが生じているような場合には、その複雑さは倍化します。
会社ごとに、経理担当者ごとにやりやすいやり方で良いのですが、見聞きしますと、
①支払処理を、明細表や一覧表で処理する場合には、明細表に概算で計上したものに着色する、
②伝票で処理する場合には、伝票にフラグを立てておき、消込時にフラグを消してゆく、
③上記①と②の併用、
のようです。
【経理担当者にとって】
決算早期化で費用の概算計上の場合、販売費及び一般管理費は見積り計上は難しく、また債務については後の消込に配慮を要します。