解説
1 経理担当者にとって気になる?点
監査法人が売上計上処理を何度も監査するので、どうしてですかと尋ねると、「いや、御社の監査上、売上は『特別な検討を要するリスク』に該当しているもので。。。」なんて言われてビックリした経験を有する経理担当者の方もおられるかもしれません。
2 経理担当者に理解してほしい点
「特別な検討を必要とするリスク」とは、監査の教科書的に言いますと、リスク評価の過程において、監査人が特別な検討を必要とすると判断した重要な虚偽表示のリスクをいいます。。。と言われても、漠然としていると思います。
通常の監査の対象については、経営者が整備している内部統制を前提として、リスクアプローチによって必要な程度の実証手続をします。
ただし、個別な事情で、このリスクアプローチの枠組みに収まり切らないものがあり得ます。具体的には、金額的に重要な非定型的取引は、内部統制は整備していても、うまく運用されないリスクがあります。また、判断に依存している事項に係るものは、例えば上司が承認するという統制を敷いていいても、その上司の判断能力を超えるものは、判断誤り、つまり会計処理の判断を間違えてしまうリスクがあります。
そこで、以上のような類のものにも、監査人に個別に配慮することを促すための仕掛けとして「特別な検討を要するリスク」という概念を設けています。
しかし、、、実際の監査実務では、典型的な小売業や製造業といった業種の場合、特別な検討を要するリスクにフィットする監査対象は、それほどありません。
そうであれば、無いものは無いのですから、本来の対応は「特別な検討を要するリスクは認められない」と調書化するべきでしょう。。。
しかし、そのような監査調書は、実は作りにくいのです。それは、当該調書が「無いことを証明する=悪魔の証明、の調書になるためです。
ですので、現場責任者としては、、、、イイ感じの監査調書にするために、もっともそうで、しかも、監査クライアントへそれ程迷惑も与えないものを、いわば人柱的に(といっては言い過ぎですが)、「特別な検討を要するリスク」に仕立てることが多いです。
具体的には、売上取引のうち、金額的にソコソコ重要性があり、どちらかというと非定型的売上(=受注販売等)を、「特別な検討を要するリスク」に選定していることが多いようです。
3 念のため補足する点
ですので、自社の監査法人が、売上を「特別な検討を要するリスク」に選定しているようであれば、よほどの個別な事情がない限り、それは、「当社に、真の意味で、特別な検討を要するリスクがあるとは認識していない→特段の監査上のリスクを想定している訳ではないんだな」と、逆に安心して頂いてよいことが多いと思われます。
【経理担当者にとって】
特別な検討を要するリスクといっても、監査人都合な話であり、やや特殊な売上が選定されていても、それは業界で平均的な対応である。