解説
1 経理担当者にとって気になる?点
監査・検査の類の仕事は、他人が作成した資料をチェックするものですが、チェックの仕方は、「全体から細部へ」「重要なところから順に」「間違えやすいところから順に」といったメリハリをつけるものです。
したがって、監査法人でも、そのような見方をしていることは容易に想像できますし、経理担当者の本音としては、「監査上、これは見られない」というものが分かっていると、「そこの資料を細かく作成しなくていい」→「確認作業を省略してもいい、若干不正確でもいい」→「その分、重要なものに労力を注入できる」というメリハリの効いた監査対応が可能になります。
2 経理担当者に理解してほしい点
結論から言いますと、監査法人が「この金額以下の科目は‘見ない’」という金額は、あります。
この金額は、監査基準委員会報告書320「監査の計画及び実施における重要性」中で、「手続実施上の重要性」と呼ばれているものでびます。複数の大手監査法人のマニュアル上、TEと呼ばれていた(呼ばれている)ため、以下ではTEと称します。
実際の監査では、決算書の表示科目を監査メンバー全員で分担し、会計処理や表示の妥当性を会計基準等に照らして会計処理の妥当性を判断する作業をしますが、その分担の基準は、現預金、受取手形、売掛金といった試算表の科目です。
したがって、監査実務上は、「科目ベースで見なくていいとする金額の切り捨て基準」があると便利です。
以下、理解の助けになるよう、極端な例を考えます。
勘定科目の合計数は会社によって異なり、また勘定科目の金額も科目ごとに異なるのですが、今それが50個だと仮定し、単純化のため全ての金額が同じ粒度で1千万円と仮定します。
すると、PMが2千万円とすると、一つの勘定科目あたり会計処理や表示の誤りは単純平均で、2千万円÷50個=40万円未満でなければなりませんので、監査メンバーが会計処理や表示の誤りとして勘案すべき金額は40万円になります。
最悪のケースでは、「40万円未満のため見なかった科目が全て間違っていた」ことがありえますが、その場合でさえも、トータルでは2千万円には届かないでしょう。
つまり、この金額例の場合でには、「残高が40万円未満の科目は監査の対象としなくてよい、見なくてよい」、ということになります。
実際には、勘定科目ごとに金額は異なりますし、内部統制が構築されていますから、前提としては会計処理誤りはあまりないはずですから、上の仮定計算の結果ほどに小さい金額にする必要はないでしょう。
そこで多くの監査法人ではTEを「PMの50%」に設定しておけば足りる、と整理しています。
そして、監査上のリスクを低減しうると判断できるような個別な事情があれば(いわゆる緩和要因があれば)、TEをPMの75%に設定することも許容するとしている監査法人も少なくないようです。
3 念のため補足する点
複数の中小監査法人では、初めからTEの金額をPMの75%と決めてしまう事務所もあるようです。
TEを75%まで引き上げてもよいとするための、具体的な緩和要因としては、例えば、「会社の会計処理や表示の誤りが最近は少なく、当期も少ないと予想する状況」が挙げられます。また、「被監査会社が監査に協力的で、監査法人が十分な手続きを実施できる状況」も当てはまります。
以上のような状況であれば、監査法人側に引き直せば、TEをPMの75%に拡大設定しても(=75%に満たない金額のものを監査しなくても)、会計処理や表示の誤りを見逃すリスクは相対的に大きくない、と判断できることに基づきます。
【経理担当者にとって】
手続上の重要性TEは、PMの50%ないし75%