解説
1 担当者にとって気になる?点
長期的な目的、例えばマーケットを開拓していくという目的で新設した子会社の業績は、時に5年程度は鳴かず飛ばずではないでしょうか?
この点に関し、固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下「減損適用指針」という)では、
- 12項前文
資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、又は、継続してマイナスとなる見込みである場合には、減損の兆候となる - 12項 (2)
「継続してマイナス」とは、おおむね過去 2 期がマイナスであったことを指すが、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しないと考えることが適当である。また、「継続してマイナスとなる見込み」とは、前期と当期以降の見込みが明らかにマイナスとなる場合を指すものと考えられる
と規定されているため、「設立後2年目でも赤字なら、もう減損損失計上!?」という状況が想定されてしまいます。(なお以下の3の(注) 参照)
そのような事業を展開する子会社を減損していっては、新規事業を使用とする会社であるほと、大規模に展開しようとすればするほど、巨額の損失計上ありきという、不都合な形になってしまいます。
2 経理担当者に理解してほしい点
新設の子会社の業績が当初低調だと、子会社株式の実質価額が著しく低下した状態に陥ります。
回復可能性があると判断できるためには、事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は原則としておおむね5年以内に回復すると見込まれる金額に基づく必要があります。(「金融商品会計に関する実務指針」 第92項、第285項、「金融商品会計に関するQ&A」 Q33」)
実務ではこの不都合を、子会社評価に係る経理規程を設けてもらい、新規設立の子会社株式の評価は、新設3年目までは取得原価で評価する旨を明記しています。
これに対する監査法人の判断は分かれるかもしれませんが、当該企業グループが属している事業領域の特徴から、そのようなルールが許容される可能性はあると思いますし、いずれにしても、事前に監査法人と協議しておくことはもちろんです。
3 念のため補足する点
上で、対処法のように紹介しましたが、経理担当者にとってはこれを打ち出の小づちのように安易に使わないようにする必要があります。
新設子会社の事業はそもそも成功する確率が未知数でることに鑑みれば、私見では、案件の大小に関係なく上記の経過年数は2年程度に抑えるのが、保守的かつわかりやすい経理規程と考えます。
(注)この点に関し、減損適用指針 12項(4)では、
(4) 事業の立上げ時など予め合理的な事業計画が策定されており、当該計画にて当初より継続してマイナスとなることが予定されている場合、実際のマイナスの額が当該計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しない。
とされています。
しかし、(特にオーナー企業等では、)経験則で向こう5年の業績は鳴かず飛ばずと分かっていても、敢えて強気な(=2年目でもう黒字(になったらいいなという努力目標的な)利益計画が取締役会で承認されることがあります。
そのため、監査人は、無理な計画と分かっていても(?)監査判断上、その利益計画を使いますので、上のような「2年目でもう減損!?」問題が生じることがあります。
【経理担当者にとって】
新設子会社の子会社株式は、予め、子会社株式の減損評価規定を設けておく。