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不動産開発事業を行う場合の支払利子の監査上の取扱いについて(昭和49年8月20日)

解説

1.概要

公表日が昭和49年であり、いわゆる列島改造論の時代であり、また当時は調査研究部会から出されている。

近時の会計基準の論点とは異なり、学問としての財務諸表論の典型論点である、支払利息の原価性に関する実務上の取扱いを定めている。

そのため、近時、改訂もされていない。

2.ポイント

支払利息に原価性はないことを原則としつつ、一定の条件のものに原価算入を認めるものである。

3.参照程度

不動産開発関連の業種では、必須である。

内容も平易である。

参考

なお、これも例外的に、以下に引用します。


 

不動産開発事業を行う場合の支払利子の監査上の取扱いについて

―業種別監査研究部会の申合わせ―

 

昭和49年8月20日

日本公認会計士協会

業種別監査研究部会

建設業部会

不動産業部会

Ⅰ 支払利子の会計処理

1 最近における国土総合開発の社会的な要請にともなって、このところ宅地の造成分譲・集団住宅の分譲・直接又は間接に市街地並びに地域の再開発に関連する事業・その他これらに類似する事業等々の、いわゆる不動産開発事業と称されるものを営む企業が目立って多くなってきた。

不動産開発事業の場合は、通常その計画の着手から開発工事等の完了までに相当の長期間を要し、しかも用地の買収並びにその造成等に膨大な資金を必要とすることから、一般の運転資金とは別に、各プロジェクト毎に借入金、とくに長期の借入金によって、開発のための特別の資金調達(いわゆる紐付融資)が行われる場合が通例である。

従って、このような不動産開発事業を行う場合の支払利子は、一般の財務費用としての支払利子とはその性格を異にするもので、むしろ特定のプロジェクトを遂行するための重要な原価要素の1つとしての性格がつよいのではないか。長期の不動産開発事業における費用と収益を合理的に対応させる見地からも、その原価性を認めてもよいのではないか。

このような意見がしだいに強くなりつつある。

2 もともと支払利子の原価性に関しては、会計理論上は肯定説と否定説に分れるところであり、その本質的な解明は容易な問題ではない。

不動産開発事業のための支出金は、会計上たな卸資産の範ちゅうに属するものと考えられる。たな卸資産の取得に要する支払利子については、企業会計原則と関係法令との調整に関する連続意見書の第四において、「たな卸資産の購入に要した負債利子あるいは、たな卸資産を取得してから処分するまでの間に生ずる資金利子を取得原価に含めるかどうかは問題であるが、利子は期間費用とすることが一般の慣行であるから、これを含めないことを建前とすべきである」として、たな卸資産の取得に要する支払利子については問題があるとしながらも、建前としてはこれを期間費用とすべきである旨の見解を明らかにしている。

しかし乍ら、ここに言うたな卸資産は、通常の商品製品等のように比較的短期間に回転するもので、一般に個々のたな卸資産と支払利子との間に因果関係がうすい場合を予定しているものである。不動産開発事業のように、各プロジェクト毎に特別の資金調達が行われ、開発工事等の支出金と支払利子との間に密接な因果関係がある場合は、通常のたな卸資産の取得形態とはその類型を異にするものと考えるべきである。

この連続意見書はむしろこのような場合を想定し「問題であるが」と限定して、特殊な場合にはその原価算入を認める場合もあることを示唆しているものと考える。

このことは、同意見書がその第三において「固定資産の建設に要する借入資本の利子で稼動前の期間に属するものは、これを取得原価に算入することができる。」として、資産の取得と因果関係が密接な建設のための支払利子は、その原価性を認めていることからも明らかである。

以上のような理論的な背景と、前述した不動産開発事業の特性から、支払利子は期間費用として処理することを原則とするが、このような特殊な場合の支払利子については、その原価算入を容認しても差支えないものと思われる。

 

Ⅱ 監査上の取扱い

監査上の取扱いとしては、次に述べるすべての条件を備えているものについては、これを原価に算入する処理も認められることとする。

1 所要資金が特別の借入金によって調達されていること

(注) 大型の開発資金は、通常いわゆる紐付融資による場合が多いのであるが、実際には紐付の客観的な事実を把握することはむずかしいので、少くとも実質的にその資金が開発事業に投入されていることが明らかで、開発工事の支出金とその支払利子が、相当の因果関係にあると判断されるものでなければならない。

2 適用される利率は一般的に妥当なものであること

(注) 支払利子の原価算入は、その資金源泉別に実際に発生した支払利子を、その各開発工事に算入することが建前であるが、その企業の開発事業のための平均的な借入利率によることもできる。

3 原価算入の終期は開発の完了までとすること

(注) 支払利子の原価算入の終期は、そのものが工事を完了して販売可能な状態になった時点までとすることが健全かつ合理的である。

4 正常な開発期間の支払利子であること

(注) 予期し得なかった事態の発生により、開発の工事が異常に延びることとなった場合、開発計画の変更によって、開発工事が中止されたような場合等の、正常でない期間の支払利子は原価に算入すべきではない。

5 開発の着手から完了までに相当の長期間を要するもので、かつ、その金額の重要なものであること。

(注) 支払利子を原価に算入する開発工事の対象は、長期かつ金額の重要な大型プロジェクトに限定すべきで、その具体的な基準については、各企業が実体に応じて定めるべきものである。

6 財務諸表に原価算入の処理について具体的に注記すること

(注) 不動産開発事業の支払利子の原価算入については、企業比較の立場から、その原価算入について財務諸表に注記すべきである。

7 継続性を条件とし、みだりに処理方法を変更しないこと。

(注) 企業の定めた基準に該当するものについては、すべてこれを継続して適用することとし、恣意性の介入を排除しなければならない。これらの支払利子を期間費用として処理する方法から原価に算入する方法に変更する場合は、企業の財務内容をより適切に表示する目的等の正当な理由がなければならない。

以 上


 

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